ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか

「ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか」高橋祥子著を読みました。

ゲノム解析で何がわかるのかが最新科学の事例をちりばめながらわかりやすく解説されています。また、著者がゲノム解析サービスの会社である「ジーンクエスト」の立ち上げに至った経緯が述べられ、若き研究者であり経営者である著者の生命科学に対する考え方がわかりやすく説かれています。暗記中心であった生物学がテクノロジーと融合し、生命科学として発展している現状、および将来の進展を見通す示唆が平易に記されています。

現状のゲノム解析サービスは、ヒトに300万から1000万箇所あると考えられている一塩基多型(single mucleotide polymorphisms, SNPa; スニップス)のうち30万箇所を調べ、科学論文で報告されている疾患リスクおよび体質を報告するサービスです。このサービスでは併せて利用者からアンケートを回収しており、将来、解析データが集まってくるとアンケートの内容とゲノムデータの関連を解析して利用者にフィードバック可能なようです。現状の科学研究ではスニップスと疾患の関係が主流ですが、将来はゲノム解析サービスが発展し、ゲノム情報からその人のどの程度の特性を推定できる時代となるのでしょうか。興味深い領域だと思います。

「ゲノム編集の衝撃」

「ゲノム編集の衝撃」NHK「ゲノム編集」取材班著を読みました。本書はNHKの「ゲノム編集」取材班が「クローズアップ現代」の「”いのち”を変える新技術~ゲノム編集最前線~」制作時に行った取材をもとに執筆されています。

ゲノム編集が爆発的に発展した要因としては「クリスパー・キャス9」というゲノム編集技術が確立されたことと、本技術に関連したゲノム編集ツールがネットで簡単に入手できる仕組みが構築されているて点が挙げられます。クリスパー・キャス9とは2012年にカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ博士とウメオ大学のエマニュエル・シャルパンティエ博士らが報告した論文が起源と考えられています。クリスパー・キャス9はRNAでできた「ガイドRAN」とDNAを切断する酵素であるキャス9で構成されています。編集したい遺伝子と相補的なRNAをクリスパー・キャス9に仕込むことで、クリスパー・キャス9はゲノム中より目的のDNA配列(遺伝子)を探し出し、キャス9が切断します。DNAが切断されると細胞は切断部位を修復しようとします。無事にDNAが修復されると、再びクリスパー・キャス9がその部分を切断し、細胞による修復が行われます。何度も修復を繰り返していると「修復ミス」が起こり元の配列と異なる配列となり、クリスパー・キャス9は切断することをやめます。ゲノム編集が完了したことになります。この場合、目的の遺伝子が機能しない形に編集されたことになります。この技術が素晴らしい点は、簡便で、成功確率が高く、いろいろな生物に適応できる点です。今までの偶然を頼りに行われてきた品種改良や遺伝子組み換えに比べるとメリットは大きいように見えます。ただ、倫理的な側面は十部に協議される必要性を感じました。