「昆虫は最強の生物である」スユット・リチャード・ジョー著 藤原多伽夫訳を読みました。昆虫を中心に見た生物進化の歴史を軽快に記した大変興味深い書です。人類の起源、恐竜の盛衰に視点を向けた書物が多い中、昆虫に焦点を当ててその多様化および進化が述べられています。現在の昆虫が多様性を確保し繁栄している秘訣は、①体が小さいこと②飛べること③完全変態のようにに複雑な成長の仕組みを作り上げたことにあるようです。本書では昆虫の繁栄が目レベルで語られています。ちなみに昆虫は動物界、節足動物門、昆虫綱の下に、コウチュウ目、ハエ目、ハチ目、チョウ目、ガ目、、、等の目に分類され、各目は科、属、種と細分化されています。以下、各時代における昆虫に起こった出来事をまとめてみました。ただし、カンブリア紀からシルル紀には昆虫が出現していないので関連種に関してまとめました。
カンブリア紀(5億4100万年―4億8500万年前)
現代の門を特徴づける基本的な体の構造がこの時代に発達したようです。節足動物門も誕生しました。この時代は「三葉虫の時代」とも言われるようで、カンブリア紀後期にはその多様性はピークに達し、70科800属6000種以上が化石として確認されているようです。
オストビス紀(4億8500万年―4億4400万年前)
脊椎動物の先駆けとなる魚類が出現しました。
シルル紀(4億4400万年―4億1900万円前)
ヤスデ、ムカデ、コムカデ等の多足類が出現しました。
デボン紀(4億1900万年-3億5900万年前)
最古の昆虫化石が見るけられました。
・土壌中に生息する六脚類トビムシ目のリニエラ
・ニューヨーク州ギルボア化石林で発見されたイシノミ目
・スコットランドのライニー・チャートから発見されたリオグナタ
石炭紀(3億5900万年―2億9900万年前)
この時代に、シミ目、ムカシアミバネムシ目、オオトンボ目、ゴキブリ目が出現しました。ムカシアミバネ目は植物を食べる最古の生き物のようです。石炭紀後期からペルム紀にかけて21科71属に多様化しました。オオトンボ目は現在絶滅しています。ゴキブリ目は石炭紀後期までに800種が出現し、石炭紀の昆虫の6割を占めていたようです。
ぺルム紀(2億9900万年―2億5200万年前)
ペルム紀に目の数は最大の23目となりました。この時代にバッタ目、カメムシ目、甲虫目、アミカゲロウ目、シリアゲムシ目、トビゲラ目といった完全変態する昆虫が初めて出現しました。ゴキブリ目はペルム紀に数を減らし、バッタ目はペルム紀に大きく繫栄し、多様性で最大規模の昆虫の目となりました。この時代の昆虫の大きな進化は同翅目の注射針のような口器の獲得です。シリアゲムシ目は完全変態する昆虫で最大生息数となりました。ペルム紀前期に出現したアミカゲロウ目は幼虫が肛門から絹糸を出す唯一の動物です。ハエ目はペルム紀の後期に出現しました。甲虫目はペルム紀後期には6科前後しか存在しませんでした。甲虫目はあらゆる生き物の中でもいち早く、木と菌類を混ぜることによってリグニンとセルロースを消化できるようになりました。このようにペルム紀に繁栄した23目のうち11目は現在では絶滅しています。11目中の8目はペルム紀末で姿を消し、3目はペルム紀末に激減し、三畳紀前期までに絶滅したようです。ペルム紀の末に生物の大絶滅が起こりました。昆虫に関しては幼虫が陸生の昆虫が大打撃を受けたようです。具体的にはムカシアミバネムシ目、ムカシカゲロウ目、アケボノスケバムシ目、ディクリプテラ目です。一方で幼虫時代を池や渓谷、湿地の水中で過ごし、えら呼吸をするカゲロウ目、トンボ目、カワゲラ目、トビケラ目は無事であったようです。
三畳紀(2億5200万年―2億1000万年前)
三畳紀には主に以下に示す11目が繁栄し(三畳紀後期の9割以上)、現在まで命をつないでいます。
・カゲロウ目 ・トンボ目 ・ゴキブリ目 ・バッタ目 ・カワゲラ目 ・同翅目 ・アミメカゲロウ目 ・甲虫目 ・シリアゲムシ目 ・トビケラ目 ・ハエ目
三畳紀に新たに出現したのは以下の8で、7目が現存しています。
・ナナフシ目 ・シロアリモドキ目 ・ハサミムシ目 ・カメムシ目 ・ヘビトンボ目 ・ラクダムシ目 ・ハチ目 ・オオバッタ目
オオバッタ目は三畳紀にしか生息していません。
ジュラ紀(2億1000万年―1億4500万年前)
ジュラ紀の前期のある時期、キバチが甲虫の幼虫を食べ始め、ジュラ紀が終わるころには寄生バチが数百種に増え、白亜紀末には数千種に達し、現在では数十万種に及んでいます。また、この時代にシロアリ目が集団で暮らすための複雑な行動を発達させました。社会性昆虫は以下の3項目を満たす昆虫です。
①集団で生息②2世代以上の個体が共存(成体の寿命が長い)③共同作業による子育て
ハジラミ目が新たな寄生昆虫グループとしてこの時代に出現しました。
白亜紀(1億4500万年―6600万年前)
この時代には、花をさかせ、果実を実らせる被子植物が繁栄しており、その多様化と並行して植物食の以下に示す昆虫グループが爆発的なスピードで種分化しました。
・ナナフシ目 ・キリギリス目 ・カスミカメムシ目 ・アザミウマ目 ・ハバチ目 ・ハエ目 ・ガ目 ・チョウ目
白亜紀に入って新たな社会性昆虫であるカリバチ、ハナバチ、アリが出現しました。白亜紀末は恐竜の大絶滅で有名であるが、昆虫の中で失われた目は一つもなかったようです。
昆虫の進化がギッシリと詰まった何度でも読み返したくなる一冊です。